この記事の要点
- 「AI に自社を学習させて推薦させる」という説明は、技術的に正確ではありません
- 企業にできるのは、学習用のクローラを拒否する(使わせない)ことで、学習させて推薦させる手段はありません
- 言いたいことの多くは「AI が参照する情報源に、正しい情報が載っている状態をつくる」と言い換えると正確になります
「AI に学習させる」とは、どういう主張ですか?
「自社の情報を AI に学習させ、回答で推薦されるようにする」という説明を見かけることがあります。これは、個々の企業が学習データの中身に働きかけ、それによって AI の回答を変えられる、という前提に立った主張です。
| よくある言い方 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 「AI に自社を学習させる」 | 学習データを選び、いつ学習させるかを決めるのは AI の開発元。個々の企業が特定の情報を学習データに加えさせる手段はない |
| 「学習させれば、すぐ推薦される」 | 学習は時点で区切られる。完成したモデルは、学習した時点より後の情報を知らない |
| 「AI の回答は学習データで決まる」 | Web 検索をしてから答える AI では、その回に読んだページが回答を大きく左右する |
なぜ、個々の企業が「学習させる」ことはできないのですか?
理由は 2 つあります。
1 つ目は、学習データの選定も、学習の時期も、AI の開発元が決めるからです。企業の側から「この情報を学習データに入れてほしい」と指定する仕組みは提供されていません。
2 つ目は、企業の側に用意されている設定は、使わせない方向(拒否)だけだからです。主要な AI の開発元は、自社のクローラが集めた情報を学習に使うかどうかを、サイトの運営者が robots.txt で拒否できるようにしています。
| 開発元 | 学習用の取得を拒否する指定 | 公式の説明の要点 |
|---|---|---|
| OpenAI | GPTBot | 拒否すると、そのサイトの内容を基盤モデルの学習に使わないという意思表示になる |
| Anthropic | ClaudeBot | 拒否すると、それ以降のサイトの内容を学習用のデータから除外する |
| Google-Extended | Gemini の学習や、回答の根拠づけへの利用を管理する指定。Google 検索への表示や順位には影響しない |
(各社の公開ドキュメント・2026 年 9 月時点)
許可しておけば材料になる可能性はありますが、それで回答が変わるかどうかは誰にも保証できません。できるのは「使わせない」ことで、「使わせて推薦させる」ことではありません。
では、学習した知識で答える AI の回答には、何が影響するのですか?
当方は、Web 検索をしない設定の AI に同じ質問を繰り返し投げ、回答を集計しました。
| 観測 | 結果 |
|---|---|
| 根拠として参照したページを示した回答 | 270 回中 0 件 |
| 対象サービスが挙がった割合(社名を含まない質問) | 64.4%(エンジン別では 76.0%・61.3%・56.0%) |
学習した知識で答える AI も、特定のサービス名を挙げて答えます。ただし何を根拠にしたのかは示されないため、どの情報が効いたのかを外からたどることはできません。
一方、Web 検索をしてから答える AI では、根拠となったページと回答の関係を観測できます。当方の実測では、対象社のサイトが引用された回だけ、対象社が 1 位で挙がっていました(AI の回答に登場したのは、引用された回だけだった)。
| 主張 | 根拠の強さ | 根拠 |
|---|---|---|
| 個々の企業が学習データを操作して、AI に推薦させられる | ✕ 否定されつつある | 個社が学習データに情報を加えさせる手段は提供されていない |
| 学習した知識で答える AI の回答は、公開されている情報全体での書かれ方の影響を受ける | △ 仮説 | 考え方としては自然だが、どの情報がどれだけ効くかは確認されていない |
| 検索をしてから答える AI の回答は、その回に参照したページと連動する | ◎ 実証 | 当方の実測(同じ質問 3 回)。連動の観測であり、因果の証明ではない |
根拠の強さは、◎ 実証(当方の実測、または複数の独立した調査が同じ結論)/○ 有力/△ 仮説/✕ 否定されつつある、の 4 段階で示しています。
代わりに、どう言えば正確ですか?
言いたいことの多くは、次のように言い換えると正確になります。
| 不正確な言い方 | 正確な言い方 |
|---|---|
| 「AI に学習させます」 | 「AI が参照している情報源の側に、正しい情報が十分な量で存在する状態を作ります」 |
| 「AI に自社を覚えさせます」 | 「AI が根拠にしている比較記事や業界メディアに、自社の情報が正しく載っている状態を作ります」 |
| 「学習データに載せれば推薦されます」 | 「推薦されるとは言えません。AI が参照している場所に載っているかを測り、載っていなければ載る方法を検討します」 |
効果を約束する言い方を避けると、説明は地味になります。それでも、あとから「言っていたことと違う」とならない説明のほうが、社内でも社外でも通ります。
※ 外部の公式ドキュメントの内容は、記載した時点のものです。